時々見せる優しさがたまらない
「ふー・・・」
文次郎は力が抜けて木の影に座り込んだ。そして隣に倒れた血まみれの留三郎を見ながら、またやってしまった、と思う。留三郎は息も絶え絶えに力なく垂れたまま、目を閉じている。顔には目辺りや頬に軽い痣ができていた。唇が切れて血が付いている。
今度は何故また喧嘩になったのか、その覚えが文次郎には無かった。気がついたらお互い拳を会わせ、殴り殴られ、時には足も出て、最後に留三郎が先に倒れたので、結果的には文次郎が勝った事になったようだ。
激しく動いた所為で留三郎の服は大分乱れている。乱れた緑の上着の間に黒い肌着と、殴られてすっかり青くなった痣が見えた。胸が上下し肌が動く。
(やばい、)
気が昂る。傷ついた相手を見て興奮するのはさすがに人間としてどうだろうと思う。だが疲れきった留三郎は文次郎にとって情事の後を思い出せてしまうのだ。顔に熱が上がり始める、いや、顔だけではない。全身に火がついたように熱くなって行く。
「おい、留三郎」
喉が渇く。文次郎は留三郎を見つめた。中々体力が戻らないらしく、目は緩く閉じられたままで力無く地に横たわっている。意識もあるのかないのか、文次郎の呼びに答えなかった。
黙って留三郎を見ていると、まるで彼の息が耳元で聞こえる気がした。昂った気が収まらない。風も涼しく吹いているのに、熱過ぎて頭が可笑しくなりそうだ。ぐるぐると普段の留三郎の声が頭の中で巡る。そう言えば、普段は別に会話らしい会話なんてしなかった。普通に話し始め、それが大した事でもない事で喧嘩になる。そしてその喧嘩は勝ち負けが決まるか、誰かが止めに来るかまで終わらなかった。
「もんじ、ろ」
意識が戻ったのだろう。留三郎が瘠せた声で文次郎のを呼んだ。潤んだ瞳に文次郎の姿が映つる。潤んだ瞳と弱々しい声に文次郎は情事の時の彼が今の彼の姿と重なって見えた。思い出してしまった声と熱、肌の感触に鼓動が早まる。胸がざわめき、何も考えられなくなっていく。今でも理性が消えそうだった。黒い髪がよく目に付く肌、肌に付いた血がやけに目に付く。
ぎしぎしと痛む体を徐に起こして留三郎が文次郎に身を近づかせる。下を向いたままの文次郎の顔を覗いた。
「どうした、どこか痛むのか」
留三郎が心配そうに問った。文次郎は留三郎の動きにも動かず下を向いていた顔を上げる。そして青い痣になった留三郎の頬に手を当て、優しく撫でた。いつにない優しい手付きに留三郎は困惑する。
「・・・頭でもぶつかったのかよ、お前」
「とめ、留三郎」
頬を撫でていた手が顎をなぞって首に辿り着く。どう見ても文次郎の様子が可笑しい。
「ヤるぞ」
なっ、と驚く留三郎の手首を強く引いて文次郎は留三郎をきつく抱きしめた。首筋に顔を埋める。片手は留三郎を抱きしめ、残りの手は黒い性急に腰に巻き付いた帯を解て、肌着の下に隠れた肌に触れた。留三郎が文次郎から離れようとしても疲れきって、痛む体では体力的に優位にいる文次郎を引き離す事はできない。どれほど力を込めても文次郎は身動きもしなかった。
「お前っ、いきなり何すんだよ・・!、やめ、っあ」
全部言われる前に文次郎は首筋に歯を立てた。留三郎が突然の痛みに悲鳴を上げる。声に構わず歯は肌に深く侵入して来る。痛みに耐えられず留三郎は文次郎の背中に手を回して、しがみついた。文次郎の肩に顔を埋めて泣き声を殺す。痛みに耐えるためきつく閉じた瞳から涙が溢れて緑の服に染み入った。
歯が首筋から離れ、噛まれた痕から血が染み出る。文次郎はそれを舐めて、吸い付いた。鉄の味が舌に広がる。苦い血の味に文次郎が眉を顰めた。
「苦いな」
「同然っ、だろ・・・あ、いたっ」
震える声で留三郎が文句を云った。文次郎の服を握った手が微かに震えている。溢れ出る涙が止まらなかった。
文次郎は何も言わず血の溜まった傷痕を血が止まるまで丁重に舐めた。熱くて温い舌が痕をなぞる度、留三郎がびくびく震える。唇を離して文次郎は留三郎の頭を軽く撫でた。
「・・ごめん」
「あったりまえだ、ばか、も・・・・ぜってー見える、これ、伊作にばれたらどうすんだ」
「お前さえ黙っているとばれねぇよ」
「まったく余計な自信だ・・・ばか文次郎」
止まらない涙をどうする事もできず、留三郎は相変わらず震える声で云いい続ける。文次郎が急に留三郎の両肩を掴んで、体を引き離す。驚いた留三郎の目が開かれる。見開いた目から涙を流している留三郎の姿が文次郎の瞳に映った。視線が合う。
「・・・・抱いていいか」
文次郎の言葉に留三郎は呆然とした。それから、からからと笑う。涙はもう出なかった。
「ははぁ、は、何を言うかと思ったら・・ヤると云ったのはお前だぜ?なにばかな事言ってんだよ、ていうか、大体お前がいつから俺に同意を求めるやつだったんだ、いつも勝手に突っ込みやがって腹ん中に勝手に達するくせに、これでは明日は日が西から昇るな」
「うるせぇ、大体、おれはいつもこう、」
「いきなり優しいふりをするから驚いてんだよ、ああ、もうどうでもいい」
「お前な・・俺をいったいなんだと、」
留三郎が文次郎を胸に引き寄せて、頭を抱いた。
「抱いても良いってことだ」
抱き寄せられ、文次郎はにやりと笑って留三郎を押し倒す。留三郎の髪紐に手を付けて解いた。留三郎の髪が地面に広がる。文次郎は留三郎に覆い被った。深く口付けながら服を脱がせる。何度も角度を変え、食い付く。殴られた時口の中が切れたのか、血の味がする。お互いの舌を絡んで、それでも足りないと留三郎は文次郎の首に抱きついた。服を脱がす途中、ちらりと見える痣に文次郎はまた興奮した。
文次郎が胸の尖りに触れる。留三郎が息を漏らした。文次郎はその反応を確かめて、そのまま傷だらけの手で弄び、咥内に含む。舌で転がし、 軽く潰すと留三郎は背を仰け反り、喘ぐ。文次郎の首に回された腕に力がこもった。
「文次郎、もんじ、っはぁ・・もっ、と」
先をせがむ留三郎に応ずる様に、文次郎は留三郎の袴に手をかける。中に手を入れ、下帯を緩めて脱がした。興奮で汗ばんだ湿っぽい手に性器を包まれ、留三郎は息を固めた。
「一度イっとけ」
そう云って、文次郎が手を動かし、留三郎を高みへ導く。袴が邪魔になって一気に膝まで下ろした。
留三郎が囈言の様に文次郎の名を呼ぶ。段々抜けていく力をなんとか込めて、留三郎は文次郎の首に縋り付いた。
高い裏声を上げて、留三郎が達した。粘性を浴びた白い液体が腹と文次郎の手を汚す。留三郎の腕が力無く地面に落ちた。
文次郎はねっとりしたそれがくっついた指を留三郎の口に運んだ。
「舐めろ」
いつもはあんなに反抗的な留三郎もこうなると赤子の様に大人しくなる。留三郎は唇に宛てがわれた、自分の体液が付いた指を口を開けて、吸い付いた。意識が曖昧なのか、目が遠くを見ている。
「よく舐めておけよ、お前の中に入れるから」
文次郎の言葉はたぶん聞こえないのだろう。留三郎はひたすら文次郎の指に舐り続けた。迎え入れたそれを熱心にしゃぶり、奥までいれて、吸い付いた。
まるで性器を舐られるような心地に文次郎の下半身に熱がこもる。
もう良い、と文次郎は指を抜いて、留三郎の左の膝裏を肩に乗せた。蕾に指を宛てがって、ぐるぐると周りを刺激する。留三郎が身をよじって喘いだ。
「あ、・・・・は、やく、もんじ、ろ」
先を強請る留三郎の口を、何も言えなくする様に文次郎が口付ける。舌が絡んで、水音が響いた。
文次郎が指を蕾に挿入する。留三郎の体が硬直して、固まる。きつくて指を進めない。
(初めてでもないのにこいつは、)
かなり交わったと思うのに、留三郎はいつもこの瞬間だけは処女のように初心な反応を見せる。他の人が相手ならその人は楽しむかもしれないが、余裕のない文次郎にとっては面倒くさいだけだった。早く挿入して、突き上げ、あの中を満たしたいのに、そうできない。かといって好きな人を力づく無理矢理に犯すわけにはいかない。留三郎は先、いつも無理矢理に抱いていると云っていた。留三郎は無理矢理だと思ったのだろうが、文次郎にはそれが精一杯だ。
彼の緊張を解くために文次郎は留三郎の耳たぶに軽く噛み付いた。いきなり性感帯を噛まれ、体が弛緩する。その間を逃がす事なく文次郎は指を2本に増して、根本までいれた。ばらばらに動かすと面白いほど留三郎の体が跳ねる。
指を抜いた。異物を失った蕾がひくつく。自分の手に乱れる留三郎を目の前にして文次郎はもう耐えられなかった。急いで自分の袴を下ろし、限界まで立ち上がった陰茎を取り出す。
「入れても、いいだろ」
答えを待たずに体勢を整えた。物欲しそうにひくつくあそこに、汁で滑る欲を宛てがう。留三郎が一瞬、困った様にえ、と呻いたが、それを了解ととって文次郎は体を進めた。
「ひっ、あ、もん、じろーっ」
痛みに涙が溢れる。微かに快感は感じられるけど、慣れない異物感に吐く気がする。目の前で瞬きがした。まだ文次郎が全部入るには時間がかかる。なのにもうこれでは最後まで意識を持つ自信がなかった。
(このやろ、優しくすると言ったくせに、これではいつもより酷いんじゃねかっ!)
文次郎に手を伸ばす。何か、しがみつける物が欲しかった。文次郎がそれに答えて留三郎を繋がったまま抱き起こし、膝の上に座らせた。文次郎の性器が根本まで入り込む。留三郎がその感触に痙攣した。開いた口を閉じられない。弱々しく息を繋ぐ。開けっ放しの口から唾液が溢れて、文次郎の服を汚した。
「お前、凄く締まるけど、」
「う、るさ、いっ・・あ、っく、痛いんだ、よ」
痛みに泣き続ける留三郎の背中を抱いて、ぽんぽんと叩く。留三郎の痙攣が少し収まったのを見て、文次郎は腰を動かし、突き上げた。留三郎が声にならない悲鳴をあげる。何度も突き上げる角度を変え、良い所を探す。突き上げられる度、留三郎は喘ぎながらひいひいと細かい息を吐いた。
痛みに耐えられず、このままでは気を失うと思った留三郎が自分の性器に手を伸ばす。文次郎に突き上げられながら、微かな快楽に少し立ち上がっていたそれをぎこちなく扱き始めた。でも中々痛みは収まらない。
「てめぇ、っ今日ほんっとうにへたくそだけど、わざとじゃねぇんだろうな・・!」
顔を上げて留三郎が文次郎と視線を合わせた。瞳が涙で濡れ、未だ溢れている。文次郎が喉を鳴らした。
留三郎が文次郎に抱きつく。早く終わらせたくて、自ら腰を動かして文次郎を刺激した。良い所が見つかったのだろう。留三郎の息が確実に色っぽくなっていく。
「あ、もんじろっ、うぁっ」
「とめっ、すまね」
文次郎が留三郎の腰を固定して、激しく揺さぶる。でも一度、強い快楽を感じた体は痛みの中から快楽を見つけ出す。
やっと性交らしい行為になって文次郎が微笑んだ。首筋に吸い付いて痕を残す。後でばれたらどうするとうるさくいわれると思ったけど、今はどうでも良かった。
最奥まで深く突き上げて、溜めていた精液を注ぎ込む。腹の中に熱くて粘る液体をたっぷり流し込まされて留三郎は身震いし、それにつれ自分も達した。
生臭い精液の匂いと、血の匂いがじわりと伝わって来た。
***
留三郎は疲れきって、文次郎の膝に頭を乗せて垂れていた。
体が痛む。後ろと腰もそうだが、殴られた所が特に痛かった。
先は突っ込まれるのが痛過ぎて忘れていたけど。
「大丈夫か」
文次郎が問った。留三郎が視線でそうみえるか、と答える。
「殴って、犯して、そんな事言うのかよ」
「犯したって・・・良いと言ってたのはお前だぞ」
「優しくすると思ってた」
留三郎が身を起こす。激痛が走って眉をしかめる。ぐらりと揺れる体を文次郎が捕らえた。
「おい、気をつけ・・」
留三郎が文次郎の後頭部に手を回して引き寄せる。唇が触れ、直ぐ離れた。
文次郎の顔が赤く染まる。留三郎が微笑んで、首に抱きついた。それに応じて文次郎が抱き返す。
「・・・・」
「あ、どうしよう」
「何だ」
「漏れた、かも」
「え?」
「お前が出し過ぎなんだよ、後始末しても残っているなんて、あー最悪だ」
そりゃ悪かったな、と笑って文次郎が留三郎に口付けた。
颯姫さんのリク「甘々な文食満」でした。
甘々を目指しましたが・・・これが果たして甘いのか(苦笑)申し訳ありません
ではリクありがとうございました!お持ち帰りは颯姫さんのみ可能です。いつでも反品できますので気に入らなかったら反品して下さいorz
2008.10.24 むれ